モミジオブメープル裏番組

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zoom RSS 文族春

<<   作成日時 : 2008/01/31 00:27   >>

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アルバート・ヴィンセント・ログマンは悩んでいた。紅葉の大家令である彼の悩みの種はそれこそ無数にあったが、今回は特に黄金の林檎の件で、である。敬愛する主人の半径5m以内に近付けないというのはさすがに執事としては失格ではないだろうか。とはいえお嬢様に抱き着くようなことがあっては、お嬢様にも今は亡き先代にも顔向け出来ない。そんなことをぐるぐると考えながらアルバートは溜息をついた。
「そうだ!10mのフラフープ、は…高神摂政が失敗されていましたな。」
執務室のルウシィに届くどころか廊下で詰まった巨大なフラフープを思い出して、眉間に皺を作るアルバート。うんうんと唸って、切れた。
「…そうか、私が女性になれば!まだここに埃が残っていましてよ!」
目玉ぐるぐるでアルバートは高笑いを決めてみせる。直後我に返って、また悩みはじめた。


結城玲音は気配を殺して逃げていた。私はただ、アルバートさんに切手を貰いたかっただけなのに。またしても立ち会ってしまった執事乱心の瞬間に涙が出そうだったが、ゲリラとしての本能は彼女を全力で、かつ痕跡を残さずにひたすら風下へと向かわせていた。
「…追いかけては、来てませんね。」
メープルを抜けて、島を走り、海を泳ぐ。逃げる途中で設置してきた罠の作動音が聞こえないのを確認して、玲音は死の島でやっと一息ついて冷静になった。…そういえば、藩王様は女性だ。摂政2人も(片方は後天的にではあるが)女性で、む〜む〜女史も女の人で、…周りが女性ばかりだと、なかなか分からないような気苦労も多いのかも知れない。アルバートさんも、女性になりたかったのかな。
「……悪いこと、したかも。」
お土産にドレスを買って帰ろう。そう考えて、玲音はまた海に飛び込んだ。


サンガは塩辛い水飛沫を髪に集めながら海を見ていた。正確には、漁場に向かう自分の船に、等速とまでは言わないがすぐには引き離されない程度の速度でついてくる同僚女性を、である。移動速度の割には隠蔽も完璧な玲音を見て戦闘が起きているのか?と考え、でも連絡ないよなあ、と考え直す。あるかないかさえ不明な戦闘より、確実な大漁を彼は選んだ。
「…Kの字、今日訓練はなかったよな?」
選んだが、一応確認はする。同時に欠席理由も考えはじめていた。
「聞いてないな。それよりサンガ、斜め後ろにやたらでかいのが居るんだが、大丈夫なのかこの船は!」
焦るK電卓の声に、サンガは玲音を見たまま、ふっ、と笑う。決めた、「サンガ急病のため今週の訓練は休憩いたします」だな。
「安心しろ、魚じゃないからな!」
「…逆に不安だ、このうすらトンカチ!」
本日の漁場まで、あと1km。


K電卓は自宅の隅で深く絶望していた。暇そうだったから、という理由でサンガに貴重な休日を潰されたことは、まぁ許そう。大量にとれた魚に押し潰されそうになったことも、許してやろう。俺達友達だもんな。だが、許せないのはその後だ。あの野郎、こともあろうに女の手作り弁当なんか持ってきやがって。しかも相手は学生だと?!羨ま…じゃなかった、犯罪者め!
「…カップルなんて、皆爆散すればいいんだ。」
行き場の無い怒りを壁にぶつけながら、K電卓は呪いの言葉を吐き続ける。実際のところ、本人達にK電卓が考えているような感情は一切無かったが、K電卓の妄想は本人達が、特に女の方が聞いたらぶっ倒れて、起きて、またぶっ倒れるような域に来ていた。冷蔵庫からカップの酒を取り出して、部屋を出る。春、来ねぇかな…と呟いて、K電卓は夜の闇に消えていった。


セリエは、鍋を睨んでいた。冒険で背負ってもらったり、冒険でかばってもらったり、他にも色々と世話になっているサンガに、恩返しをしようと考えたのである。…とはいえ。菓子を作った経験はあっても食事を作ったことが無かったセリエにとって、初めての弁当作りは簡単なものではなかった。
「…も、もう2時になっちゃう…!」
はうあー!と叫んでセリエは尻尾の毛を膨らませた。時刻は、深夜の2時である。今日は4時には釣りに行くと言ったサンガに弁当を渡すには、徹夜するしかない、とセリエは判断していた。鍋を振るセリエ。派手な音を立てながら崩れる洗い場のボウル。セリエ、再びはうあー。洗い場とコンロを交互に見て、目を回した。
「あ、あ、あ、…おっ、お鍋見ないと…!」
火から目を離すのは、駄目。とりあえずそれだけは徹底することにして、セリエは再び鍋を睨みはじめた。
結局、慣れない手料理と見事に荒れた台所を片付けて、セリエが眠りについたのはその日の夕方過ぎであった。


神室想真は大量の袋を抱えていた。
「お弁当を、作りたいんです!」
そんなことを叫びながら扉を蹴り開けた深浦まゆみを思い出して、細く短い息を吐く。そんな風に頼まれては、(自称)兄としては聞くしかないだろう。なぜか放っておけない少女を紙袋越しに見て、神室は優しく微笑んだ。荷物が邪魔でまゆみの姿は見えないが、それでも興奮したような口調から表情は想像出来る。時折増える荷物から、歩いている場所も大体は予想がつく。神室とまゆみは、市場の中央辺りを歩いていた。
「あ!」
「うん、今度は何が欲しいんだ?それと、人が多いからな。はぐれるなよ、元気娘。」
不意に上がった悲鳴に首を傾げる神室。促した注意の返事を待って、それから蒼白になった。返事が無い。紙袋を地面に置いて前を見れば、そこに居るはずの少女は姿を消していた。神室、絶叫。まゆみは、はぐれていた。


春賀は上機嫌で裏通りを歩いていた。途中、紙袋いっぱいに詰めた絵の具の注文票を見て、幸せそうに笑う。確かに戦時に比べれば技族局への予算配分は下がっていたが、同時に出て行く額もかなり下がっていた。結果として、春賀は大量の画材を経費で買い付けることに成功したのである。
「あぁ…早く届かないかなぁ。」
つい先程画材屋で注文した色を思い出して、春賀はうっとりと頬を赤らめた。くすんだI=Dの茶をそのまま写し取ったような。治癒師の輝く手の青をそのまま写し取ったような。紅葉国の夕焼けの赤をそのまま写し取ったような。憧れる少女の髪の黒をそのまま写し取ったような、そんな色を、見つけた。感きわまってぎゅう、と紙袋を抱きつぶす。
「早く使いたい…。」
愛を囁くような声色で呟く春賀。偶然近くを通った親子が何やら言い合いながら彼を指差すのにも気付かず、春賀は鼻歌を歌ってくるくると回った。


ヨルイチは息を止めていた。彼女の憧憬の対象である王猫のモミジが、膝の上で身体を丸めていたからである。
「にゃあ。」
と鳴きながら、ほてほてとモミジが彼女の元へ歩いてきたのが、30分前のことである。ヨルイチが常備している猫じゃらしを振る間もなく、モミジは彼女の膝に顎を預けた。
「にゃーあ。」
凍り付いたのは、ヨルイチである。普段追いかけている相手がこんな至近距離に居るというのは、あまり心臓に良い状況ではなかった。おそるおそる肉球に手を伸ばすヨルイチ。自分を見上げるモミジが微笑んだように見えて、悶えた。ふわふわの肉球をそっとヨルイチの唇に当てるモミジ。顔を真っ赤にして、口の中で奇声を上げるヨルイチ。
「……もっ、モミジさまっ!」
腕を広げてモミジを抱き締めようとするヨルイチに、しなやかな動きでモミジは逃げた。尻尾で不埒者の顔を叩くことも忘れない。モミジ、魔性の猫であった。


ホーロ・ジョーは石畳に腰をおろして、弦のないギターを弾いていた。大通りを眺めている最中、結城が明らかにサイズの合わないドレスを買っていた気がするが、忘れた。人の波に流されて行く深浦も、重要ではない。猫に熱っぽい視線を送るヨルイチや、紙袋に愛を囁く春賀を見た気がしないでもないが、どうでもいい。愛は自由なんだろう、おそらく。曲は無音のままクライマックスに入っていた。
「弦がありませんよ。」
サングラス越しに、ホーロは瞼を震わせる。隣から、彼が紅葉国に流れた目的の(やたらさまよっていて捕まらない)トリスタンの声がした。
「これは、そういうギターなんだ。」
「なるほど。」
気配が、笑う。目を開けばきっと消えてしまうだろう相手に、目を閉じたままにやりと口の端を上げて、ホーロはやはり無音のまま曲目を変えた。


む〜む〜は夕暮れに染まる紅葉並木を歩いていた。隣には傑吏が居て、それでむ〜む〜は上機嫌である。こんなシチュエーションの歌があった気がするにゃ〜。と考え、鼻歌を歌おうとして、止める。危ない、傑吏くんは世代じゃなかった。
「…こんな地方でも、紅葉するのか」
隣では傑吏が、そうつまらなくもなさそうに紅葉を見ている。興味深そうに眉を上げた顔は、年相応だった。微笑むむ〜む〜。
「それは…」
「あ!」
「…にゃ?」
「何か言ったかな?」
説明しようとした台詞を悲鳴にかき消されて、傑吏の顔を見るむ〜む〜。傑吏は傑吏で悲鳴の主をむ〜む〜だと思ったらしく、二人は顔を見合わせる形になった。直後、痛々しい音を立てて深浦まゆみが木から落ちてきた。土のついた顔を上げて、迷子です!と叫ぶまゆみ。
「…えーっと、迷ったのかにゃ?」
「違います。神室さんが、迷子なんです。」
「迷子だ。」
頭痛がするような顔で傑吏が溜息をつく。む〜む〜は引きつった笑顔を浮かべて、
「…送るにゃ。」
と言った。


紅葉ルウシィは、夜の公園を歩いていた。散歩兼息抜き兼月見兼見回り、である。金のリンゴを手に入れてからというもの、その特性からアルバートに頼むから一人では出歩かないでくれ、と泣き付かれている身ではあったが、せっかくの月の綺麗な晩に静かに部屋に篭っていられないのが彼女であった。
「それに、変な気を起こす相手なんか蹴れば済むものね。」
歪んでもなお美しい赤い唇を吊り上げて、愉快そうに笑う。ふと聞こえた啜り泣きに長い睫毛を揺らしながら眉をひそめ、辺りを見回した。
「……キック、…かしら?」
視界に現れた啜り泣くK電卓を見て、頭を掻くルウシィ。周りに転がる缶の数からして、相当酔っているようではあるが。
「…これも、王様の仕事よねー。」
やれやれ、と肩を回してルウシィがK電卓を背負う。王様業は、年中無休であった。


シューは自宅の窓から夜空を見ていた。まだ随分と明るい空から目を離して、背後でテーブルに突っ伏す兄、神室想真を伺い見る。トレードマークのハンマーも床に置いて、夜空よりよほど暗い顔をしている兄に少し眉を寄せ、シューは口を開いた。
「…まゆみ、見つかったんだろ?」
「……見つかった。自分が許せんだけだ。」
伏したまま答える兄に、シューはやれやれとばかりに肩をすくめる。時計の針はそろそろ21時を指す頃で、健康優良児のシューにとっては睡魔に襲われる時間でもあった。
「ピンポーン」
尻尾を伸ばして、あくびを一つ。ベルの音に反応しない兄を確認して、目を擦りながらシューは玄関に向かった。
「…あ、」
「こんばんは。」
玄関に立つまゆみに驚いたままの顔で、シューは差し出された弁当箱を受け取る。壁越しにいまだ突っ伏しているであろう兄を見て、まゆみを引き止めた。
「待ってて。夜は人通りも少ないし、兄貴に送らせる。」
「わぁ、ありがとうございますっ。」
これで寝られる。兄の元に向かいながら、シューは大きくあくびをした。


竜神顎は医務室で弁当箱と睨みあっていた。勿論弁当箱からすれば彼を睨む理由はないので、顎がそう思っているだけではあるのだが、弁当箱の纏っている雰囲気は彼にそう思わせるだけのものがあった。
「……確、実に歯に悪いな。」
何とか顎が絞り出した言葉通り、弁当の中身はその半分近くが菓子類であった。色とりどりのむき出しの菓子と、通常のおかずのコラボレイト。これを渡してきた相手、深浦まゆみの、おそらくはオススメの菓子なのだろう。おかずも不格好ではあるがよく出来ている。だからこそ、顎は心から思った。何も一緒にしなくても、と。
「皆さんで、食べてくださいね。」
弁当箱を届けに来た時のまゆみのはにかんだような笑顔を思い出して、甘い匂いを振り切るように卵焼きを摘む顎。咀嚼しながら、彼は大昔に兄に騙されて食べたメロン味のキュウリを思い出していた。
「………尿が甘くなりそうだ。」
下ネタであった。


R十三は目を回していた。朝から学生の健康診断に駆り出され、重大な病気の兆候を見つけ、気付けば全校生徒どころか教職員の検査まで請け負っていたせいである。全てが終わって彼が王宮の医務室に帰ったのは、日付が変わる直前であった。
「つ…、疲れた…。」
そのままベッドに沈みたい欲求を押さえて、十三はふらふらと自分のデスクに向かう。日誌を書こうと椅子に座って、鼻孔をくすぐる、というよりもはや直撃する甘い匂いの方に顔を向けた。
それは、何やら形容しがたいものだった。一瞬菓子折かとも思ったが、そういう訳でもないらしくところどころタコの形のウインナーやキュウリの浅漬けなどが入っている。
「………食べていいかな。」
だが、疲れ切った十三の脳にとってそんなことは問題ではない。重要なのは糖分であった。チョコを口に放り込んで息を吐く十三。本日初めての休息だった。


ぞぐたは正座していた。正確にはさせられていた。目の前には半透明の美少女が腕を組んで立っている。紅葉国の会議室を牛耳る人工知能、通称りんごのホログラムである。
「…ねぇ、反省してる?」
不機嫌を隠そうともしないりんごに訪ねられ、ぞぐたは首を必死で縦に振る。
「嘘つき。」
「嘘じゃないです…いた、痛いです。お願いですから、もう許してください…!」
悲鳴をあげるぞぐた。げしげし、とりんごが足で蹴る動作をしているが、実際に当たっているのは少女の足ではなくりんごに制御されている会議室の椅子なので相当痛い。ずっと正座のままの足も痺れている。ぞぐたは少し涙目になっていた。
「すみませんでした…。」
「………全く、失礼しちゃう。」
はぁ、と頭上から溜め息が聞こえたのとほぼ同時に、椅子の速度が緩む。
「いい加減、許してあげ…」
「…ゆっ、幽霊っ!!」
数時間前に自分の叫んだ台詞と全く同じ台詞を聞いて、ぞぐたが顔を上げる。りんごの表情が見えたのは一瞬だったが、ぞぐたは確かに恐ろしいものを見た。
「…二人共、そこに正座ッ…!」
りんごの説教は、終わらない。


ナマムギは見てしまった。誰も触れないのに動く椅子を。あちらが透けて見える少女を。運の悪いことに時刻は深夜3時半。
「…ゆっ、幽霊っ!!」
いわゆる「出る」時間であるから、悲鳴をあげた。
それから1時間、ナマムギは正座させられている。隣にはどうやら自分と同じ理由でぞぐたが正座させられており、それだけが救いだった。
「……ぞぐた君、」
苛々を発散するようにシャドーをするりんごに隠れて、ナマムギが小声で話す。
「…はい?」
「君、何時間ここに…?」
「5時間です。」
乾いた笑顔でぞぐたが言った台詞に、声にならない悲鳴をあげるナマムギ。異変はすぐに起きた。
「そこ!私語は禁止ッ…?や、やだやだやだやだ!虫!虫ー!!」
「…ん?」
「へ…?」
ばたばたと腕を振るりんごを不思議そうに見上げる二人は知らない。りんごには侵入者対策のセンサーがあることを。


九夜は、絶体絶命だった。
「おはようございます。」
早朝、仕事が始まる一時間以上前に医務室に入った九夜は、いつも通り無人の医務室に向かって挨拶した。いつも通り机を拭き、いつも通り日誌に目を通す途中にいつも通りではない部分に気が付いた。竜神顎の席に人影がある。挨拶に返事はなかったから、ひょっとすると疲れてそのまま寝てしまったのかもしれない。そう考えて九夜は、「顎」の肩を叩いた。
「…っ、嫌ー!!」
叩いた瞬間、「顎」の肩が崩れた。細かくなった「顎」が九夜に群がる。羽音、悲鳴、羽音、くぐもった悲鳴。
「きゃー!きゃー!きゃー!!」
顎に見えたのは、菓子に群がる大量の黒い虫であった。害はないが、少し気味の悪い形をしている。
「だっ、誰か…誰かっ!!」
顔の周りを飛ぶ虫に、九夜が口を押さえながら叫ぶ。誰も居ない医務室に、悲鳴だけが響いていた。


高神喜一郎は卵を混ぜていた。すぐ脇では味噌汁が湯気をたてており、その隣では網焼きの鮭が黒い煙を吐き出している。窓の外に逃げていく煙を目で追いかけながら、早朝の空気に高神は笑った。
「…平和だなぁ。」
味噌汁の鍋を火からおろし、代わりにフライパンを乗せる。菜箸でくるくると卵を巻いて、ご飯の炊ける音に二人分の食器を並べた。
「今日はちょっと早く起きましたから、頑張ったんですよ。」
照れくさそうに笑いながら高神がちゃぶだいに朝食を並べる。その正面で新聞を読んでいた男は怪訝そうに眉を寄せた。
「……いや、それは結構だが、何で俺が?」
「まぁ、色々あるんですよ。」
来客用の箸を持つタカツキに笑いかけて、自らも箸を持つ高神。二人分の朝食を一人で食べるのは、さすがに空しかった。


竜神帝は王宮の廊下を走っていた。目的地は数秒前に悲鳴の聞こえた方向である。途中でくぐもりだした悲鳴に、舌打ちする帝。迷いなく佩いた刀を握って、加速する。女性が、悲鳴をあげていて、声が出せない状況にあるかもしれない。理由はそれで十分だった。
「大丈夫か?!」
医務室の扉を蹴り開け、帝は発言の間抜けさに顔を歪めて舌打ちした。返事を待たずに悲鳴の元に跳躍しながら剣を抜く。苛立ちを表すように鞘と刀身の間に火花を飛ばし、ようやく視界に入った「曲者」に、手を止めた。
「は、早く追い払ってください!」
「………。」
涙目の九夜にたかる虫に、帝は無言で刀を納める。手近な机からファイルをとって虫に風を当て、窓から追い出して扉を直す。一連の動作を無言のままやって、帝は部屋を後にした。九夜の礼を背中で聞きながら。


オイレは自宅に居た。机にノートを広げて、黙々と日記をつけていく。早朝の散歩中に全速力で自分を追い抜いていった親友のこと。首都で見掛けた同僚達と、おかしなマリアッチのこと。まゆみに渡された弁当のこと。想像ではあるが、散歩コース上の同僚宅で見聞きした物憂げな表情の少年と、シンクに何かを叩き付ける音。
「………。」
日記と言うよりは記録に近い詳細な内容を書き込みながら、オイレは優しく笑う。夜ももう遅く、手元を照らす明かりに眩しそうに目を擦ってペンを走らせる速度を上げた。綴り終えた記録を読み返して、一度頷くオイレ。日付と今日も紅葉国は平和でした。の一文を書き加えてノートをしまう。棚には、何十冊ものノートがしまわれていた。明かりを消してベッドに向かい、布団をかぶる。
「…おやすみなさい、私の国。」
目を伏せながら呟いた声は、夜の闇に静かに溶けた。

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